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「っ……」
声が出ない。
だって、すごい綺麗な人。
こんな人……見たことない。
まるで恋愛ゲームに出てくるヒーローみたいに、キリッとした眉、薄くて形の良い唇、スッと通った高い鼻、驚くほど整ったその人は、
少しだけ長めの前髪から覗くその瞳をじっと見つめ返すだけの私は、
「何用だ」
低い中に、どこかまだ幼さの残る声が聞こえて、もう周りの音が何も耳に入らなくなった。
よく澄んだ、響く心地のいい声だ。
「光蓮様より、蘭殿を紅蓮様のお部屋へご案内するよう申しつかりました」
「くだらん、帰れ」
「しかし」
「……こんな阿呆づらの女には、微塵も興味がない。助けてやったのも、家の周りで死なれたら迷惑だと思ったまで。深い感情はない」
そう無表情で告げて、私と虎太くんに背を向ける紅蓮様を目で追いながら、
私の中でプツリと何かが切れた。
「ちょっと、言わせておけば!聖様だか、ヒジキ様だか知らないけど、人がわざわざ慣れない着物でこの大きな屋敷の一番奥にあるアンタの部屋までたどり着くのが、どれっほど大変だったか!分かる?分からないでしょ!分かってたまるか!」
「は?」
紅蓮様が私を振り返って眉間にシワを寄せるのを見届けたあと、私の勢いはさらに増す。
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