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「聖様、楓にございます」
聞こえてきた楓さんの声に、ホッと胸を撫で下ろす。やっと迎えに来てくれたんだ。
紅蓮とふたりきりだった時間は、実際のところ30分もなかったはずなのに、ものすごく長い時間のように感じられた。
「入れ」
「失礼します」
スッと障子を開けて、慣れた様子で部屋へと入る楓さんはやっぱり出来る女そのものだ。
それに、紅蓮も。
さすが次期ご当主様。
私なんて楓さんが部屋の前まで来たことにすら全然気づかなかったって言うのに。
微かな摺り足の音を聞き取っていたってことでしょ?凄すぎる。
「楓、この女はどこの者だ」
あ、紅蓮の話し言葉がまた堅苦しくなった。
屋敷の中では……って、人と話す時ってことなのかな?
「……はい。蘭は、私の子として今日から東里にて世話をします」
「……どういう意味だ」
「この子には身寄りがありません。と言うよりも……この子はこの世界の者ではありません。
よって、この世界では私たちの助けなしには生きてゆくことは不可能と判断いたしました」
淡々と言葉を紡ぐ楓さんと、それを真顔で聞いている紅蓮。
その表情はどちらも譲らず、険しいまま。
「……この世界の者ではない?」
「はい。光蓮様は、蘭が紫黒の巫女であることを願われております。聖様をお救いして欲しいと、ここへ来る前、蘭へ直々に頭をお下げになりました」
このことを、紅蓮に言っても良かったのだろうか。光蓮様はわざわざ紅蓮がいないところで、私にお願いをした。
なんだかあの時、そんな気がしていただけに
今目の前で目を見開き、驚きを隠せない様子の紅蓮を見て、やはり言うべきではなかったのではないかと心配がよぎる。
それでも、楓さんは真っ直ぐに紅蓮を見つめてさらに続けた。
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