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「聖様、光蓮様は聖様が大事なのです。誰よりも聖様を案じ、お救いしたいと願っておられます。どうぞ、光蓮様のお気持ちをお察しください」
「……」
「では、蘭を連れて失礼します」
楓さんに小さく手招きされて、私はなるべく摺り足で入口へと向かう。
そんな私を見ながら何か考える仕草をする紅蓮に、楓さんの隣に並んで小さく頭を下げた。
もちろん、こんな高貴なお方だ。
次はいつ会うか分からないし、もしかしたらもう会うことはないかもしれない。
「さようなら」の意味を込めての礼。
「助けてくれてありがとう」の礼。
だけど、なぜかそれを見た紅蓮は短く息を吐く。まるで何かを諦めた瞬間に、体の中から嫌なものを吐き出すみたいに、短くフッ……と。
「……蘭」
───ドクンッ
そして、その澄んだ声で私の名を口にした紅蓮は、
「俺の妃になれ」
「ヒメ……?」
「なにを……っ」
何やらとんでもないことを口にしたらしい。隣で目を見開いたまま紅蓮を見つめる楓さんに、心がザワザワと音を立てて震える。
こんな時にも紅蓮の表情はちっとも変わらない。
まるで感情を殺して生きているみたいだ、なんて……自分の置かれている状況をこれっぽっちも理解できないまま
ただ、ぼんやりと2人を交互に見つめるのが精一杯な私は、これからこの世界でどうなるんだろう。
元の世界に戻れる日は来るんだろうか。
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