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「あの、私」
いくら紅蓮と話しても埒があかないと、私は緊張に震えながらも双葉さんへ声をかけた。
けれど、双葉さんはそんな私の言葉はまるで聞こえていないかのように、再び口を開く。
「……紅蓮。3日後、西風家から涼音(すずね)殿がまいられる。もちろん、涼音殿の才色兼備の噂を聞いて、私からぜひ紅蓮の側女(そばめ)として東雲家へ迎えたいと依頼したことです」
「……っ!」
同様を隠しきれない様子の紅蓮は、一瞬 顔をこわばらせたあと、すぐにまた何を考えているのか全く読めない冷たい瞳を双葉さんへと向けた。
「勝手なことしやがって」
ボソッと小さく呟かれた紅蓮の言葉は、この場に相応しくないくだけた口調で、多分 私にしか聞こえていない。
そんな紅蓮の気持ちを知ってか知らずか、今まで冷たい空気を纏うだけだった双葉さんは、口元に小さく笑みを浮かべて
「では、こうしましょう」
さっきまで真っ直ぐ紅蓮に向けられていたその綺麗な瞳で、私を見つめる。
痛いくらい突き刺さる視線。
ゴクリと喉を鳴らせば、その音がやけに耳に響いた。
「西風の涼音殿と、東里の蘭殿。
どちらが妃として相応しいか……。
私がこの目で見極めさせて頂きます」
「それなら文句ないでしょ?」とでも言いたげに、口角を上げる双葉さんは、初めから分かっている。
才色兼備の涼音さんと、無才能凡人の私。
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