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由紀乃が何度も話しかけている内に、その老婦も返事をしてくるようになり、気が付くとその老婦は随分と落ち着きを取り戻していた。
由紀乃は二人を交互に見ながら、やがて夫らしき老人に聞いた。
「奥様は、この様な症状は前からですか?初めてですか?」
「あ、ああ、こんな事は、今までなかったんだが・・・・・・」
落ち着いた老婦とは対照的に、その老人の狼狽はまだ収まっていなかった。
「あなた、もう大丈夫ですよ。お嬢さん、ありがとうね」
そう言った老婦の笑顔を見て、ようやく夫の方も落ち着きを取り戻した。
「日頃からでないとしたら、奥様、きっと興奮なさってたんでしょうね」
そう言って由紀乃は二人に笑顔を向けた。
「そうね。ここは、この人と初めて逢引した場所で、それ以来だったから嬉しくて嬉しくて」
「おい、そういう事は他所様には・・・・・・」
そう言いながらも、その老人は照れくさそうに頭を掻いている。
「私達のお付き合いは、親に反対されてたの」
「まあ、昔の話だがな」
そう言いながら立ち上がると、その老人は、ゆっくりとその腰を九十度曲げた。
「この度は、本当にありがとうございました」
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