優しい嘘

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私は5人姉妹の真ん中だった。 丁度、1番下の妹の就職が決まった時、父が末期の癌である事が分かった。 父は所謂昭和の時代の父親像そのものの人で、頑固で寡黙そして怖い父だった。 でも、その反面凄く気の小さい所もあり、とにかく面倒臭い人だった。 なので、小学校を卒業する頃には、私達は皆、父とは距離を置くようになり、唯一関わる時は怒られる時と喧嘩の時くらいだった。 私達家族は話し合い、父には病気の事を告げなかった。 先に言ったように意外に気が小さい所のある父が余命僅かだと分かれば、半端なく気落ちするのが分かったからだ。 それから、父に嘘を吐き続けた。 毎回、検査の度に良くなっていると、偽の診断書を先生に作って貰った。 父は自分は少し症状の重い胃潰瘍だと思っていた。 父の余命は3ヶ月。それ位なら、嘘を吐き通せると思った。
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