優しい嘘

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海に行くと、父が車椅子を下りて、砂浜を妹達や2番目の姉に背中を支えられ歩いていた。 少し離れて見ている母の側まで行き訊く。 「お父さん大丈夫なの?」 「本人は歩きたいって言うからね。いんじゃない?」 「そうなの?」 「あんた達も行けば?」 「うん」「うん」 家族揃って出掛けたのは、10年振りくらいだ。 しかも、海となると小学校以来だ。 父は昔以上にはしゃいでいた。私の記憶では、1番かも知れない。 1番上の姉が小学校を卒業するまでは、毎年一家でこの海に来ていた。 姉妹が卒業する度に、1人また1人と抜けて行き、末の妹がダンス教室に通い初め夏休みも忙しくなると、末の妹の小学校卒業を待たずに海には行かなくなった。 こんな風になるなら、もっと行って置けば良かった。 いつまでも一緒で、いつでも行けると思っていた。 ーーそんな事が無い事も、同時に分かって居たのに。 いつかは来る別れを知っていたが、それは遥か先だと思っていた。 いつまでも、いつでも、なんて物は、多分この世には存在していない。 すると思っているだけなのだ。 それが、人間の持つ幻想の1つだと9月の海で知る。
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