メイドさんは世界一いいいい!

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  「ようこそ、私の婚約者殿」  間近で聞こえた凛とした男の声に視線を遣れば、美形は顔を崩した。といっても、不快感を表したわけではなく、満面の笑みを浮かべたのだ。  おそるおそる起き上がり――自身が寝かされていたのにそこで気がついた――、もう一度男を見る。やっぱり知らない人でしかない。目鼻立ちもいいし背も高いとなれば、なにかしら記憶に残るはずなのにな。というか、オレの知り合いにはここまでの美形はいないんで、記憶に残るはずもないんだけれども。よくよく見ると頭の両端にはくるんと丸まった角があるし、黒く長い髪をひとつにまとめて肩に流しているのが様になっている人をはじめて見た気がする。 「誰……ですか? ここはどこなんですか?」  アンタ誰やねんという視線を投げかけてやれば、男は「大丈夫、なにも怖いことはありません」と言う。おい、いまの言葉で恐怖心が湧いてきたんだが、どうしてくれようか。 「ここはどこなんですか?」  言外に早く教えろやと滲ませる声にも男はにこにこと笑うだけ。「早く答えろ」と険を滲ませてやれば、「ああ、すみません。見とれていました」と調子外れの音を出す。 「あなたは私の婚約者なのです。それは理解できますか?」 「理解できかねる言葉ではあるけれども、解ります」 「そうですか。では、ここはあなたの住む――ああ、いや、住んでいた世界とは異なる次元と言えばいいですね」 「それはまあ、そんな雰囲気ではありましたが、どうしてオレなんですか?」  巡らせた視線の先には、現代日本ではありえないような――ネコミミやらウサギミミを生やしたメイドさんたちがいるわけだし、異世界だとは理解できる。人間の耳もきちんとあるからコスプレっぽく見えたりもするが、そうではないと解るのはときおりぴくりと動いているからだ。コスプレでもこうはいかないだろう。みんなかわいらしい子だなあと感心していれば、「シュナイデント様」と、ひとりのネコミミメイドが男に近づいた。そうしてなにやら耳打ちをする。 「ああ、それはたしかに手っ取り早いですね。しかし、私がそれをするのは……」  頬を赤らめた美形は、頬を赤らめても美形である。羨ましいぞ、くそが。 「いや、手を握るだけですが。どこまで純情なんですか、あなた様は」 「手を握るだけで困るなんてわけが解らん」
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