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あまりにも突然のことで、思わず変な声が出てしまう。なんなんだこれは、怪奇現象か。そういうのは苦手だからやめてくれよう。
顔を引きつらせながら固まる間にも、まあるいミミが顔を出した。どこかで見たことのある色合いのミミがちょこんと。と同時に、「くままー!」と元気な声とともに布団が弾き飛ばされていく。
「んんっ!?」
おはようですー! と言いつつオレの懐に勢いよく飛び込んできたものは、テディベアだった。コーヒーとミルクを混ぜたような、いわば、カフェ・オレやらカフェ・ラテと表される色合いの。もしかしなくとも、これは――この子は姉ちゃんの手作りテディベアか!
「え、ちょっ、待って、待って! お前どうしたんだよっ?」
「くまっ!」
「お、おう……?」
引き剥がしたテディベアは得意気な顔をしたのち、「くま~」と上機嫌のまま抱き上げる親指先に頬を擦り寄せる。どうやら甘えているらしい。「ご主人様~」と。
テディベアは「一緒に生まれ変わったのですっ!」と言っていたが、そんなことが可能なのだろうか?
ちらちらと魔王様を窺えば、「どうかしましたか?」と先を促された。ううん、美形に怯みそうになるが、やっぱり聞くに限るか。
「魔王様、テディベアについての説明をお願いします」
「ああ、それは私からの土産、ですかね。思い出に浸るときにあなたとあちらの世界を繋ぐものがいるかと思いまして」
「なるほど」
感傷に浸るにはまだ日が浅すぎるが、浸らないとも限らないからなあ。つまりは先を読んだということか。さすが魔王と呼ばれるだけのことはあるな。そう感心しつつも「くまっ」――「ご主人様っ」といまだ機嫌のよいテディベアと握手状態になると、魔王様はなぜか頭を撫でてきた。ぎこちなくとも。
嫌ということはないが、いきなりなんなんだろうか。ふたたび窺うように上目遣いで「魔王様……?」と見ると、魔王様は「いえ、私はどうこうする気はまだなく――、あ、いえ、そういうことではなくてですねっ」と慌てながら手を引っ込めてしまった。なにも慌てなくてもいいのにな。
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