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~陣雷夢想~第一話「夢の中で出会う」
黒き稲妻と深紅の稲妻が、絡みもつれ合い炸裂する。それは、その黒く巨大な二足歩行する塊の周囲に展開していた。
全てを飲み込むがごとき、漆黒の闇の体躯に突き出し立てられた二本の稲妻が、白い火花を散らしながら幾何学の紋様をその体に強引に刻みつける。
低く重く、幸福に満ち溢れた人間が聞けば心を掻(か)き毟(むし)りたくなるような唸りが、その狂獣と呼ばれる怪物から発せられ、戦場の隅々まで響き渡った。
真逆な反応。歓声ともとれるどよめきが、明らかに劣勢で心が折れそうになっていた人間の軍団から沸き起こる。
空中を飛ぶ二人の稲妻、雷撃を放った主はこの強力な力の発動に一人は手応えを感じ、一人は共に戦う仲間たちを思い安堵した。
刹那、狂獣の頭部に突き出ている、剣を模した角が異様に伸び上がる。その柄は人の五本の指に握られていた。
更に腕が伸び出、黒い底なし沼から人の姿が現れるように頭部、続いてその上半身が姿を現す。
「えっ?」
安堵した女性は驚きの声を漏らし……。
「ちっ!」
手応えを感じた男は舌打ちする。
その狂獣から現れた人の姿は剣を持ち、銀が混ざる黒紫の長い髪は西部荒野に吹きすさぶ戦場の風になびいていた。 百年以上前から現在に至るまで、世界に戦慄と謎を刻みつけている張本人。ただ自分と同じ名の娼婦の存在が気に入らない、との理由だけで伝説となった凶器の塊。現実で死してもなお、この夢の世界に凶行をもたらすリッパー――、切り裂きの魔が姿を表したのだ。
その姿を見る二人の脳天に、突き刺さるように凶声が響く。
「さ~~て、お遊びはこれからよ。お二人さん……」
結界を駆使して語りかける切り裂きジャック。メアリー・ザ・リッパーの持つ剣が怪しく光り、その眼光が狂気に揺れた。
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