~陣雷夢想~第一話「夢の中で出会う」

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 遥か遠くには白銀を頂いた無数の山々が連なっている。  山の中腹には漆黒の竜の巣が点在し、時にこの世界は災厄に見舞われていた。  透明で抜けるような青空の下、森に囲まれた草原に一人の若い女性が横たわっている。  草を撫でるように流れ吹く風が緑に波の模様を作り出し、彼女の少し茶が入った短い黒髪も周囲に同化して揺れ動いていた。  若草が絡まる指がピクリと動き、女性の大きな目がゆっくりと開かれ、憂いを帯びる黒い瞳が現れる。 「うん……んっ、はあ……、ここは――」  その女性は目を覚まし、甘い吐息のように呟いた。 「――此処はどこなの? いつもとは違う場所のようだけど……」  顔を片手で覆い、体を起こしながらゆっくりと周囲を見回す。  彼女の名前は高槻(たかき)玲(れい)。この世界ではレイと名乗っていた。  東京都在住の公務員で、仕事の内容はかなり変わっているが、歳よりも幼くえるその姿はごく普通の少女とも言えた。  ただ、彼女には特殊な力があった。現実とは別に存在するもう一つの世界の中で活動出来る力。今、彼女が目を覚ましたここがまさに、その夢の中の世界だった。  レイは自分の姿を見て驚く。 「なっ、何? この格好……」  真っ赤な編み上げ式のショートブーツに白いボディースーツ。傍らには日本刀、腰のベルトには鞘を固定するような金具が付いている。体に覆いかぶさっていた赤いスカーフが足元にハラリと落ちた。  この新開発のアンダーボディアーマーは、私服で戦闘に発展する可能性が高い場合にインナーとして着用するのだが、サイズが合っていないので、胸のファスナーは中間くらいで止まり、その大きな胸は三分の一程度しか隠れていない。  体を採寸してオーダーメイドで作られるこのアンダーを、レイはまだ作っていなかった。 「これは美寿希のサイズね」  立ち上がり、ベルトの金具に太刀を取り付け、スカーフを胸に巻き結び目を背中に回す。これでほんの少しは格好がついた。  この夢の世界では人の想像力で全ての物が創造される。中世ヨーロッパ風を模した創造物が大半のこの世界では、レイの風体(ふうてい)は違和感がないとは言えないが、それほど目立つ存在でもない。
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