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「――あれは一人じゃないんだ。いくつもの意識の集合体。邪悪、恨み、復讐。ありとあらゆる闇がどす黒く固まった体。それが怪物みたいな姿をしているんだよ」
レイは息を呑んだ。子供のころに見たあの高い二つの塔に激突した二匹の竜。あれこそが今タケシが説明した魔の集合体そのものなのだろうか?
「得体の知れない何かを核にした、いくつもの魔、悪意の固まり。そんな感じだったな」
タケシの考えはたぶん正しい。人によるが夢の中では五感はかなり鋭くなるのだ。
「私はもっと大きな黒い竜を子供の頃に見たことがあるの……」
「そうか、竜なんてのもいるのかよ……」
レイはビールのお代りを二つ注文する。
「奴らは離れていても気配を読めば分かる。こちらから近寄らなければ危険はないよ」
二人は酒場を出て、今夜止まる宿を探した。ここは宿場街なので幸い宿はすぐに見つかった。
受付で手続きをして、レイは二階の小さな部屋に入る。タケシは隣の部屋だった。
ベッドに小さな机、椅子、机の上には水差しとコップが置かれている。壁には姿見が掛かっていた。
机の上に太刀と胸に巻いていたマフラーを外して、丁寧に折りたたんで置く。
レイは鏡に自分を写してみた。この奇妙なコスチュームを除けば髪型も容姿も現実とは変わりない。後ろ姿も同様だった。
レイは胸のファスナーに手をかける。一瞬、突然ドアを開けられるパターンと思ったレイは、念の為ドアノブを回す。鍵はかかっていた。
解錠してドアを開けて、廊下に顔を出し左右を確認してドアを閉め改めて施錠する。
「想像が現実になるなんて、ホントこの世界は厄介よねえ」
再び鏡の前へ行き、ファスナーを下ろし裸になった。正面をチェックしてから背中も見て、再び鏡に向き直る。
レイは大きな胸を少し持ち上げる。中学、高校生の頃は嫌でたまらなかったこの胸も、最近はあまり気になくなってきた。
鏡に顔を近づけ耳たぶを引っ張ってみる。
「やっぱり、ピアスの穴が消えている……」
体に変化があるとすればこれぐらいだった。
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