~陣雷夢想~第一話「夢の中で出会う」

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 レイは今までに、現実では性同一障害者(トランスジェンダー)の少年が、この世界では美少女アイドルの姿であったり、車椅子生活の障害者が走り回っていたりの姿を何度か見てきた。  ここ、夢の中では現実よりも想像の力が勝るのだ。 「さあ、もう寝ようか……」  寝れば現実に帰れる。  レイは服をたたみ、装備品をまとめて机の上に置き、裸のままベッドに潜り込み目を閉じた。    ◆  タケシは装備を付け服のままベッドに横になり、ぼんやりと天井を見つめていた。大小の刀と弓矢は傍らに置いてある。  彼はこの世界では何かとトラブルに巻き込まれていた。ある時は酒場でちょっとだけ揉めた男が、仲間を連れて宿に乗り込んで来たり、ある時は宿が押し込み強盗に襲われたり……。  だから彼は常に装備を手元に置き、寝る時も服は着たままだった。  トラブルを避けて、最近は森の中ばかりで過ごしていた。森の動物、精霊や妖精との出会い、そして時には魔を退治する。  だから、今日も最初は本当に精霊だと思ったのだ。遠くから滝の音が聞こえるので行ってみると少女が滝壺で泳いでいた。  まるで水と遊んでいるような、涼しげな微笑を湛えて泳ぐその精霊は滝壺で水中に姿を消した。  しばらくすると少女は、ゆっくりと水面に浮かび上がって来た。手足を広げた状態で、髪の毛が水の中で揺らめき、大きな黒い瞳は空を見つめ、まばたきする度に長い睫毛に着いた水滴が飛散した。  現実世界で視力二.〇のタケシの目は、夢の世界では、おそらく十か十五はある。動態視力も格段に上がっているようだった。  タケシはしばし、我を忘れてその姿に見とれた。  大きな胸はまるで島のように水面に浮き、腹部は水に浸かり下腹部が少しだけ水面に見える。そこまで見た時、彼女はまるで生身の人間だ。精霊ではないのだとタケシは悟った。  周りを見回すと彼女の物らしき靴や衣類が脱ぎ散らかしてある。確かにこんなにお行儀が悪い精霊はいないだろうと思った。間違いない、彼女は人間だ……。  ぼんやりと考えていると女がこちらを振り返り目と目が合った。 「きっ、きっ、キャーーっ」  タケシは悲鳴に驚き思わず背を向けた。
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