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フィオナが石像となったあの日から、もうすぐ二年が経とうとしていた。
その朝も、僕は、当たり前のようにフィオナに逢いに丘の頂上へ向かっていた。
石像となった彼女の下へ向かうことは、もはや僕の一部となっていた。
今日も早く彼女に逢いたくて、逸る気持ちで朝の陽ざしにあらわれた丘の中を夢中で駆け上っていた。
でも。
僕の世界で一番愛おしい恋人は、その日、そこには建っていなかった。
代わりに、泣きながら金槌を握りしめて立っているカレンの足元に、フィオナはあまりにも変わり果てた無残な姿でバラバラに散らばっていた。
その光景の意味することは、あまりにもむごかった。理解するまでに、相当の時間を要した。
だって、これじゃあまるで――
――カレンが、フィオナを壊したみたいじゃないか。
そうと認識したその瞬間、身体中を叩き割られたような激痛が駆け抜けた。これはきっと、カレンに叩き割られたフィオナの痛みそのものだった。
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして。
どうして、こんなに酷いことを…………!
火がついたように駆け出した僕は、肩を震わせて泣いているカレンの細い首を、迷うことなく締め上げた。
手加減することすらせず、ただありったけの力をこの腕に込めて。
「ユキ……ト……やっと……フィオナ以外、に……目を、向けてくれたね。ゴ、メン、ね…………私、まちがってた、かなぁ……」
目の前で、僕に首を絞められたカレンが弱々しく微笑んだ時、ハッと息をのんだ。
でも、我に返った時には、もう遅かった。
カレンは、あまりにもあっけなく、息を引き取った。
『ユキトは、私と貴方のどちらを信じるかしらね』
耳元で、フィオナが涼しげに笑った気がした。
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