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言い終えた瞬間、彼女は、この世の誰よりも安らかな微笑を浮かべ、人間としての温もりと丸みと色を失いはじめた。足元から冷たい石像に変わり果てていくフィオナのことを、僕はただただ呆然と見つめていることしかできなかった。
あの時のことを思い出すたびに、僕の心臓は抉られるような痛みを感じ、真っ赤な血を吹き上げる。呼吸困難に陥って、喉は焼けるように熱くなる。眦には涙が浮かんできて、酷い時には吐き気まで催して、座り込んでしまう。
それでも……フィオナは僕に、一筋の希望を遺した。
独り、この世界に取り残された僕が、フィオナの遺していったその尊い贈り物を受け取らないはずがなかった。
僕は、彼女に言われた通り、毎朝毎晩、石像になった彼女の下に通い続けた。
フィオナの前に膝をついて祈りを捧げては、石になってしまった彼女を柔らかい布で丁寧に拭くのが僕の日課となっていた。
あの日から僕は、一日たりとも祈りを欠かしたことはない。
一年たった今も忘れられない。
忘れられる、はずがなかった。
それでも、僕の果てのない想いは、まだフィオナに届いていなかった。
きっと、これでも全然足りないんだ。
多分これは、彼女があのか細い身体で受け止め続けていた絶望そのものだった。
同時に、あんなにも愛していた彼女を失望させることしかできなかった僕に課された罰で、受けて当然の報いでもあった。
「ユキト……」
振り向けば、僕のすぐ後ろに、幼馴染のカレンが立っていた。
柔らかそうな茶色の髪が、ゆるゆると波打って肩上あたりで揺れている。
「カレン。来てたんだ」
足音にすら気づかなかった。
相当深く、物思いに沈んでいたらしい。
いつも元気いっぱいな幼馴染のカレンは、ここのところ浮かない顔をし続けている。今日も、淋しそうな瞳で僕のことを見つめていた。その大きな瞳はいつになく弱々しく揺れていて、なにか葛藤しているようだった。
彼女は一度うつむくと、思いを決めたように僕のことをまっすぐに見据えた。
「ユキト……。もう、ここに来るのは、やめて」
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