あの日、君が石像になってから

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 カレンの唇は震えていて、蒼褪めていた。  感情を昂らせていく彼女と反比例するように、僕の心は冷えていった。  その先に続く言葉を、僕はあまりにも容易く予想することができたから。 「フィオナは…………自ら、石になる毒を飲んで、自殺したのよっ。ユキトが毎日祈りを捧げているのは……フィオナじゃなくて……ただの石ころなのっ。彼女の魂は、そこには宿っていない。フィオナは、一年前のあの時、死んでしまったの! でも……でも……ユキトの心を縛り続ける為に、あんな酷い嘘を吐いたのよっ」  カレンの言っていることは、もう既に何度も聞いたことがあった。うんざりして嫌になってしまうほどに、村のみんなは口を揃えて僕に言い聞かせようとする。  僕のすぐ後ろに建っている恋人はフィオナではなく、ただの石像なのだと。  みんな、フィオナは嘘を吐いて、僕を騙したのだと言う。だから、毎日祈りを捧げるなんていうバカげた無意味なことはやめなさいって。  でも、僕にとっては―― 「カレンも……村の皆と同じことを言うんだね。君なら、分かってくれると思っていたのに」 「っ! 私は、フィオナが、自分であの石になってしまう恐ろしい毒を飲んだところを見たのよっ。それに、あの娘は、私に言ったわ。『ユキトは、私と貴方のどちらを信じるかしらね』って……」 「ごめん、カレン。それ以上は、聞きたくない」  その時の僕は、自分でも驚くくらいに冷たい声をしていた。きっと、絶対零度の無表情になっていたと思う。  カレンは哀しそうな眼で僕を見ると、口をつぐんで去っていった。   ――僕にとっては、それでもフィオナこそが、残酷なまでに唯一の真実だった。  それからも僕は、フィオナの下に通い続けた。  そうして、一か月。二か月。三か月と時は過ぎていった。  こうして通い続けていれば、いつかはフィオナに、僕にとっても彼女だけが全てなのだと証明することができると信じていた。  そして、フィオナが僕を赦して帰ってきたその暁には、もう一生、彼女を失わないで済むように生きていこうと堅く決心していた。  そう、決めていたのに。
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