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「…違います。
知華子ちゃん、それは奈良に掛かる枕言葉ですから。
信号機と一緒にしないで下さい」
困った顔で説明するのは、カテキョの井上先生。
秀麗な顔の中で、眉だけがほんの僅か下がってる。
………あれ?
これは夢なのかな?
それとも現実?
頬をむにっ、と摘まむと……
「痛っ!」
どうやら現実の方らしい。
ちゃんと起きてるんだ、私。
でも、先生に教わってる最中なのにうたた寝、しかも夢見ちゃう程熟睡しちゃうなんて!
どんだけ失礼なのよ、私!
「…すみません」
私がつねった頬を、先生はくすりと笑いながら指先でそっと撫でる。
「痛そう。赤くなっちゃってる」
先生が触れた指先と眼差しが優しくて、涙が出そうになる。
「あと少しで終わりますから、もう少し頑張って下さい。
今日の顔色もあまり優れないみたいですし…寝不足ですか?」
しゃっ、と赤鉛筆で○×を付けながら、先生は穏やかに訊ねる。
私は小さく頷いた。
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