第1話  超大作RPG

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第1話  超大作RPG

深夜。 アパートの一室の窓から微かな光が漏れている。 光源は白色の蛍光灯ではない。 それは液晶画面が発するもので、無数の色が混ざりあって織り成した攻撃的な光だった。 その画面を見つめる男の顔は、室内の明度と同様に暗い。 目は半開きで生気が無く、まるで催眠術にでもかかっているようだ。 その癖、両手に握られているゲーム用コントローラーからは、カチャカチャッと機敏な音が鳴る。 慣れた手つきは熟練工のようであり、指使いには微塵の迷いもない。 「何が大作RPGだよ。中身スッカスカじゃねぇか」 男はコントローラーを強めに放り投げた。 間髪いれずに手元のペットボトルを掴み、クイと呷る。 ひとしきり喉を鳴らすと口を離し、長い息を吐く。 苛立ちを誤魔化す為に飲んだ炭酸飲料だが、気持ちを沈める程の効力は無かったようだ。 ゲーム画面はエンディングを経てスタッフロールに切り替わっており、もはや操作の必要としない。 彼は達成感に浸る事なく、ズボンポケットよりスマホを荒々しく取りだし、すぐに画面をパチパチとタップした。 呼び出した画面はゲームの公式サイト。 指は動きを記憶しているかのように滑らかに、静かな怒りを乗せて躍り狂うのだった。     
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