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「俺さ、実は……幽霊が見えるんだよね。」
「嘘つくなよ。」
カランコロン、と喫茶店のドアベルが間抜けに鳴った。
「なんで全く信じないんだよ!」
「当たり前だろ!もう7年以上の付き合いなんだから、今更そんな嘘ついてバレないとでも思ったのかよ!」
秋元は諦めたようにため息をついて、ソファーへ身を沈めた。
「そうかぁー……やっぱお前には通じねぇかぁ。」
「全く……久々の再会なのに、なんでいきなりしょーもない嘘ついたんだよ。」
「……これにはよ、深ぁ~い事情があるんだよ。」
雨が打ち付ける窓の向こうを見つめたまま、秋元は意味ありげに笑う。コイツにはこういう、なんでもない事をもったいぶる悪い癖がある。
「なんなんだよ、その深ぁ~い事情ってのは。」
俺は半分呆れ気味に聞いた。どうせ深い事情などありはしないのだ。
「あ、お前、さては『どうせ大した事じゃないんだろ?』って思ってるな?」
見透かされていたらしい。なんだか癪だ。
「ところがどっこい、今度は本当に事情があるのさ。そうじゃなきゃ、わざわざお前に雨の中ご足労願ったりしないさ。」
「もったいぶってないで早く言え。事情ってのはなんなんだよ。」
「まぁそう焦んなって。ちゃんと順を追って説明すっから。」
完全に秋元のペースに持ち込まれてしまった。やっぱり癪だ。とはいえ話を聞かないことには始まらない。仕方なく、俺は聞く態勢を整えた。
「俺が岩水中に転校してから、二か月ぐらいになるだろ?」
「そうなるな。」
「中学校入学と同時ならともかく、中二の四月からの転校ってのは、やっぱり色々と大変なのさ。友達グループっていうのもなんとなく出来上がってきてるわけだし。」
「確かにそうだな。」
「なんとか転校先に馴染んで楽しい中学校生活をエンジョイしたい。そう思ったわけさ。」
楽しいとエンジョイの意味が重複していることについてはツッコまないでおいた。
「転校生っていうのは注目される。だが、それも最初の頃だけだ。そう長くはもたない。だから、なんとか飽きられる前に友達を作っときたい。」
「それはそうだろうな。」
「そのためには、最初の自己紹介でなんとか爪痕を残さなくちゃならないと俺は思った。そこでだ……。」
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