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「小三のやつね……俺のひいばあちゃんが亡くなってからちょっと経った頃だったかな。俺と秋元が遊んでたら、秋元が何もないとこを指差すんだよ。」
伊藤と樋口が身を乗り出して聴き入っている。そういえば樋口はファミレスに来てから一言も発していない。人見知りなのだろうか。
「俺が『どうした?』って聞くと、秋元が『おばあちゃんが、お前に手を振ってる』って言うんだよ。話しを聞くと、どうやら俺のひいばあちゃんみたいで、もうすぐ四十九日だからお別れを言いに来たんだと。俺が秋元の指差す方向に「ばいばい」って手を振ったら、満足気に消えてったんだってよ。」
我ながら悪くない出来だと思う。
「マジかよ!すげぇな!」
「んで次の日母さんに聞いたら、ひいばあちゃんがその日の夜、母さんの夢枕に立ったんだってよ。だから、あの日うちの家族に挨拶しに来たんだろうな、って話。」
横を見ると、秋元が誇らしげにしている。少しだけムカついたので、テーブルの下でスネを小突いた。
「それ、本当ですか。」
樋口がようやく口を開いた。あんまり真っ直ぐ俺を見つめるものだから、少しだけたじろいだ。
「ああ、本当だよ。」
樋口は俺の答えを聞いて、何か言いたげな顔をしたまま、また黙り込んだ。どうやらこの子は秋元を疑っていること以外にも、この会に参加した理由があるようだ。
「これで信じる気になったか?伊藤。」
秋元は一層図に乗っている。
「おう。秋元、疑って悪かった。もう二度と嘘つきなんて言わねぇ。」
「分かってくれればいいんだよ。」
二人は固い握手を交わしている。なんとか作戦は成功したらしい。俺は額の汗を拭った。
それから一時間程は、秋元が小学生の頃の話やら伊藤のサッカー部事情やらで盛り上がった。俺は、秋元がボロを出さないかずっとヒヤヒヤしていたせいで、ファミレスの飯を味わうことが出来なかった。
結局、樋口はそれから一言も喋らなかった。
その夜秋元からLINEで
「ありがとな!マジで助かった!」
とメッセージが送られてきたが、もちろん既読無視した。
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