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 母さんは朝から笑顔全開でホットサンドを焼いていた。ネクタイをしめた父さんが頬をいっぱいにしている。 「しっかり食べないと筋肉つかないからね」  出されたハムサンドを胃に落とす。これハムの厚さ一センチ以上あるよ。 「今日もなるだけ早く帰ってくるから」  革靴に足を詰め終えた父さんは、ドアのノブに指先をかけたままふり向き、そう言い置いて出勤した。  明るい声で見送って、ほら徹も、といつもよりひと回り大きくなった弁当箱で胸を小突いてくる。 「今日からプロレス練習生なんだから、ガンガン食べてね」 「ありがとう。だけど父さん、仕事大丈夫なの?」 「なんとかなるんじゃない。なんたって公務員なんだから。どんなにばっくれようがクビにはならないでしょ。そんな大人の事情より、燃えろ若者よ。プロレス頑張ってねー」  いや、ちゃんと働かないとだめだと思うよ。  僕が心の中で勤労のすゝめを唱えていると、バシンと背中をたたかれて、その勢いで送り出された。   電車を降りて知った顔に挨拶をしながら学校にむかった。  正門には、あららー、また三好が立ってるよ。朝から竹刀もって服装チェックって時代錯誤だよなあ。私立の進学校なんだから不良なんていないのに。  中学に入って間もないころ、キャラクターもののサブバックを提げていただけで、なにをそこまでというぐらいに怒られて、反省文まで書かされた。  あのときは怖くて怖くて仕方がなかったけれど、今思えばやり過ぎだよね。  それ以来三好のことは大嫌いだ。  いや、三好を慕っている生徒はゼロと自信をもって断言できる。  もう半分白髪なのに、髪を伸ばして口ヒゲなんか生やして。テンガロンハットをかぶせたら西部劇のガンマンだよ。  心の中で文句を垂れて、おはようございますと頭を垂れて、ヒゲの砦を通り過ぎた。
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