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教室ではほんの軽いおしゃべりがあるぐらいで、学校の指示通りみんなお行儀よく読書か自習をしている。
僕は人見知りをするたちだから、こういう雰囲気はありがたい。みんなが仲よくわいわい話している中で、一人でぽつんって本当にさみしいもんね。
僕もお利口な一人になるために座ったら、いすにスイッチがついていたのか、すぐに横から声がした。
「小森、おはよ」
二年生の新クラスで、僕は自分の名前が「小森」だったことにいたく感謝した。
五十音順で決められた席の隣には栗原さんがいた。地味な僕にも愛想よく話かけてくれる優しい優しい女の子だ。
初対面では、とっても可愛らしく自己紹介をしてくれた。
「あたし、高校入学組なんだ。よろしく。写真を撮るのが好きです」
シャッターを切る真似が、実に様になっていた。別に僕のことを「好き」と言ったわけじゃないのに、ドキドキした。
それはウインクされたから。
もうこれは僕の希望に満ちた完全な勘違いで、栗原さんには僕の心を誘いこむつもりはまったくなくて、ファインダーをのぞくときに目をつむるからパチッとしただけ。
でも、ろくに女子と話すこともなかった僕の魂を吸い取るには十分な破壊力だった。昔の人が写真に魂を抜かれると噂した気持ちがよくわかった。クラブ活動をテーマに写真を撮っていると教えてくれたのに、僕はくらくらしてなんて答えたのか覚えていない。
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