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放課後。
クラブを一カ月ほど休ませてほしいと部長にお願いした。部長といっても同級生だ。
春のコンクールをすみやかに予選落ちした合唱部は、三年生は早々に引退。有名大学の合格目指して受験勉強にどっぷりだ。
「なんだ、勉強か? お前、そんなに成績苦しくないだろ」
部長の岩谷が簡単に理由を聞いてきた。
「いや、まあちょっと」
正直に言うこともできないので、もごもごしていたら「いいんじゃない。どうせ秋まで、なんにもないんだし」と副部長の大野はさらっとしたもんだ。
この二人。つきあってるって噂だけど、きっと大野のかかあ天下なんだろうなあ。
もっとも恋愛禁止なんてわけのわかんない校則があるから、確かめるのも気が引ける。
この学校、禁止禁止で校則が細かい。それをいちいちチェックするのが時代錯誤のガンマン三好。
バイトは原則禁じられていて、特別な事情がある場合にのみ、認められる。
学外のバンド、演劇は問答無用でダメ。
違反がばれると停学、または退学と厳重に処罰されるから、頭ごなしに禁じられて腹は立つものの誰もが大人しく従っている。
僕は恋愛禁止なんて守るつもりはないんだけれど、無念なことに破る機会に恵まれたことがない。
学校の帰り道、プロレスの練習をするために途中下車した。昨日父さんは、大学のプロレス同好会のメンバーに僕の練習相手になってくれるよう頼んでくれた。
フランソワさんが待っている。
「すぐにわかるから」とものすごく雑な案内をされて、とにかく大学に行くように命じられた。
駅を降りると正門までのゆるい上り坂の両脇に「焼肉定食五百六十円」「ランチ三百八十円」なんて手書きの看板がぶら下がっている。ゲームセンターに麻雀屋、古本屋がごちゃごちゃと並ぶ。
なんだか時間が止まったようで、それでいてエネルギーがふくれ上がっている、いかにもな学生街だ。
そんな風景と雰囲気にくるまれながら正門につくと、金髪を後ろで束ねた男の人が立っていた。染めた金色じゃない。本物の外国人だ。
背恰好は僕と同じくらいで上下がジャージ。分厚い体操マットを丸めて自分の体にもたれかかせている。
うむ。すぐにわかった。父さんの言う通りだ。
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