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洋介はよく使う札から「今日はどのような相談で?」と書いてあるものを出す。
「実は私、好きな人がいるんです……」
衝撃的な言葉に、洋介はカーテン越しに彼女をまじまじと見た。
「でも私、遠くに引っ越さないといけなくて……。想いを伝えたいんですけど勇気がなくて……。もし……もし来世で私とあの人がどうなってるか聞いたら勇気が湧くような気がしたんです」
聞きたくなかった真実を話す恭子の目は、正しく恋する乙女そのものだ。
洋介は「お相手の名前と特徴を聞かせてください」と紙に書いて差し出した。
「宮野誠也くんって名前で、カッコよくて優しくて……とにかく素敵な人、です……」
それを聞いて洋介は複雑な気持ちになった。
(なんでこの子まであんな奴のこと……)
「分かりました、少々お待ちください」
洋介は素早くそう書くと、恭子をじっと見つめた。本来なら相手の写真を見せてもらった方がいいのだが、宮野の顔なら嫌という程見ている。数十分前にだって見たのだから写真なんて不要だ。
更に意識を集中させ、じーっと見つめると頭の中にヴィジョンが流れ込んでくる。
視えてきたのは知らない風景。風で揺れる大きな木々の下にはベンチがあり、今より大人な恭子と宮野が座っていた。
「こうして会うのも1ヶ月ぶりね」
恭子は愛おしげな目で宮野を見つめながら言う。
「そうだな……。ひとりにさせてごめんな?」
「ううん、仕事だから仕方ないよ」
「今度まとまった休み取って戻ってくるよ。そしたらふたりで旅行にでも行こう」
宮野はそう言って恭子の手を握る。結婚指輪だろう、ふたりの手には同じデザインの指輪が光る。
「嬉しい、その時ははやめに連絡してね」
「もちろんだ。そろそろ行かないと……またな」
「うん、お仕事頑張って」
ふたりは手を振って別れた。
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