3.屯所へ(後編)

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「まったく、悪知恵だけは働くやつだな。近藤さん、どうだ」 「それでいいだろう。総司、ちょっと中富くんを呼んで来てくれ」 「承知」  沖田はスッと立ち上がると、部屋を出た。やがて足音が遠ざかり、部屋の中は静かになった。 「近藤さん、他のやつには知らせるか」 「そうだな。試衛館の仲間には話しておくかな」  琉菜はそんな近藤と土方のやり取りをぼんやり見つめていた。  トントン拍子に進んだ今の出来事を振り返る。  賄い…か。  ちゃんとできるかなぁ。  それより何より、あたし、本当に幕末にいるんだなぁ。  琉菜は目の前に置いてある携帯やペンケースを見た。  中学の時からの愛用品は、今この場所で見るととても奇妙なものに見えた。 「先生、中富さんを連れてきました」  沖田の声に琉菜はハッと我に返った。  中富さん……  どんな人なんだろう。  あたしの、ご先祖さま… 「入りなさい」  近藤の合図で障子が開いた。 「失礼します」  沖田ではない声がした。琉菜はその声に聞き覚えがあった。  沖田が入り、先程より少し琉菜寄りに座った。  そして次に、声の主が部屋に入ってきた。  琉菜は目を見張った。  中富は、あまりにも瓜二つだった。琉菜はまるで鏡を見ているような気分になった。     
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