1.時の祠

1/11
562人が本棚に入れています
本棚に追加
/221ページ

1.時の祠

2018年 4月 「高校かぁ、楽しみだなあ」  少女はにっこりと顔を綻ばせ、隣を歩く母を見た。 「楽しみなのもいいけど、勉強もちゃんとしなさいよ?あと、はしゃぎ過ぎて問題起こさないように」 「今日が入学式だよ?いきなりそーいうこと言うわけ?」 「はいはい、ほら、曲がるわよ」  少女の名前は宮野琉菜。ごくごく普通の高校生、になる予定である。 「なんかさっきから曲がり角多くない?」 「そうね。京都っていうのは道が碁盤の目みたいになってるからね」  宮野家は琉菜が中学を卒業するまでは東京に住んでいた。  だが父親の仕事の都合もあり、琉菜の高校進学を境に京都に引っ越してきていた。 「あら?」母、裕子がぴたりと立ち止まった。 「どしたの?」 「道…一本間違えちゃったみたい」 「えーっ?」 「大丈夫大丈夫、またこの先の角で曲がれば元の道に戻れるんだから。京都って便利ねえ」  琉菜は訝しげな視線を裕子に投げた。  すると、ビュウッと強い風が吹いた。  琉菜も裕子も舞い上がる砂埃に目を閉じた。  やっと風が収まると、2人はゆっくりと目を開けた。 「春一番ってやつ?」 「そんなわけないでしょ。春一番っていうのはもっと早く吹くわよ」     
/221ページ

最初のコメントを投稿しよう!