1人が本棚に入れています
本棚に追加
じめじめとした天気の中、一台の車がゆっくりと山道を走っている。地面がぬかるんでいる為、速度を出すとすぐにスリップする恐れがあるからだ。社内には、骨格の良い男性が一人運転席におり、助手席には黒縁の眼鏡をかけた、細長な男性が座って窓の向こうを眺めている。
「そろそろか?」
「ナビだともう着いていてもおかしくないが・・・」
車内には二人の話し声がこだまする。周りはうっそうとした森林であり、鳥の鳴き声すら聞こえない。空模様もその雰囲気に呼応するかのように、どんよりとし始めている。数キロ程走っただろうか。車内のナビゲーションが目的地周辺であることを示している。
「仕方ない。ここからは道も狭くなりそうだし、歩いて行こう」
「そうだな。ナビもここ周辺を指してるみたいだしな」
二人は車内から降り、狭い山道を歩いていく。持ち物はそれぞれ、スマートフォンと懐中電灯、山道に入る前にコンビニで購入した携帯食と飲料水のみである。
そもそも、二人は当初は全くの赤の他人であった。インターネットの提示板にて、お互いに廃墟マニアであることが判明。そして、廃墟を一緒に探索しようと両者が決めるまで時間はかからなかった。
「今回の廃墟は約50年前までは、立派なお屋敷だった。しかし、屋敷内で殺人事件が発生。それ以降、ここは誰も住み着かなくなり、今では殺された人の幽霊が出るとか」
「幽霊なんかありえないって。提示板には実際に見たという書き込みが複数あるけど、
どの書き込みも統一性が無い。確たる証拠も無い。問題の廃墟に入り込んでいるかも怪しい」
真向から、幽霊の存在を否定し続けるのは
細長の圭太。今回の探索を提案してきた本人である。
「俺は幽霊やらポルターガイストとか、信じはしないけど、実際にいるのなら見てみたいかな」
圭太に対し、軽い口調で話しかけているのは筋肉質の結城。
圭太と結城はお互いに廃墟マニアだが、廃墟に対する感覚が異なる。圭太は幽霊等の存在はいないことを証明する為に、各地の廃墟を周り写真や音声の録音を続けていた。時には、一週間以上も廃墟に泊まりこむ時もあった。一方、結城も同じく幽霊等は信じていないが本当にいるのであれば、一目見てみたいという純粋な好奇心から、今回の同行に付き添っている。
「かなり歩いたと思うが...まだ着かないのか?」
最初のコメントを投稿しよう!