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手当たり次第に撮影を始めた。音声も撮る為に、結城は録画担当である。階段が無い為、一階のみの探索となる。一階にはコンロが複数個もあるキッチン。ソファーのような布が剥がれて中身がむき出しとなっている椅子。
食事を行う場所であったのだろうか。大きな机が4つほど並んでおり、中には脚が腐敗し
折れてしまっている物もある。天井にはシャンデリアが無残にも割れて、中身の電球らしき物が見え隠れしている。歩く度に埃もまい散る為、二人は口を腕で覆いながらスマートフォンを操作していた。
一階のみであるが、一通りの撮影が終わったので、結城は圭太のほうを振り向き、声をかけた。
「もう大体こっちは撮影終わったぞ」
しかし、圭太は結城の声に反応しない。少し声が小さかったか?と疑問に思いながらも
もう一度、圭太に話しかける。
「おーい。こっち終わったぞ」
圭太はそれでも反応しない。不審に思い、
結城は小走りで圭太に近づく。そして、右肩を叩いて振り向かせようとした瞬間に見た。
見えてしまった。圭太のスマートフォンの映像が。もう録画は終わっていたのだろうか。一階のキッチンのほうを映された映像であるが、その映像に映っていてはおかしい物がある。
髪だ。尋常では無い量の髪がキッチンのシンクからはみ出して映っている。黒々としたその髪はまるで生き物であるかのように、少しずつ撮影者である本人目掛けて、床を伝いながら伸びてくる。伸びてくる。伸びてくる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
録画を行っていた圭太はスマートフォンを手から取り落とした。音声は結城には聞く余裕がなく、気付けば圭太を置いて先に門扉まで走り抜けていた。幽霊を見たいとは、常日頃から興味本位で思っていた。しかし、いざ目の前にすると、冷や汗が止まらない。動悸が激しくなる。ここにいると危ないという感覚が強くなり、無情にも圭太を置いて門扉まで飛び出してしまった。
「ああ...そうだ。圭太は。圭太は...」
結城は自分の犯した罪に気付き、すぐに屋敷内に引き返した。圭太はまだ佇んでおり、床に落としたスマートフォンを手に取ろうとすらしない。触れたくもないのだろう。結城は圭太の正面に立ち、眼を見て話しかける。心なしか、圭太からは表情が一切抜け落ちているように見えた。
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