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■3.ちょっと名前を貸しただけ
◆西窪なずな
五月初旬の連休は、全体に渡って好天に恵まれた。
五月五日の昼前には南の空に横一線の虹が出て、それを目にした多くの視聴者が撮った写真を地元のニュース番組に送り、何日かして天気予報コーナーで取り上げられた。気象用語で『環水平アーク』と呼ばれるそれは、晩春から初夏にかけての午前中、南の空にしか見られない珍しいものらしい。
「へぇ~。こんな虹もあるんだ~。私も見てみたかったなぁ~」
ちぎったレタスとサラスパ、ツナをマヨネーズで和え、きゅうりとトマトで飾った簡単なサラダを箸で頬張りながら、西窪なずなはテレビのお天気お姉さんに相づちを打った。
残念ながらその日は吹奏楽部の部活の真っ最中だったので、外を見る余裕もなかったのだが、これだけ多くの視聴者が見て、写真を番組に送るくらいなのだから、さぞかし珍しいものだったのだろう。ちょっと悔しい。私だって生で見てみたかったのに。
「こら、海斗が真似するから座って食べなさい、なずな。はいはい、海斗ちゃんは、おばちゃんの真似なんかしないで座って食べようね~」
「む。おばちゃんって言わないで。まだ高三だし」
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