■0.夏の風はどこに吹く

2/4
前へ
/257ページ
次へ
「それにしても、鬼嶋(きじま)さん。花岡北(はなおかきた)高校の応援は、なんというか、すごいですね」 「そうですねぇ。私も高校野球の解説を何十年と務めさせて頂いているんですけど、こんな応援は初めてですね。だって、花岡北はもともと、バンカラ応援の高校じゃあなかったでしたっけ? ……いやあ、それにしても、すごい。これは一見の価値ありですね」 「ええ、まさしくそうなんです。なんでも、この圧巻の大応援団を結成するまでには、学校全体を巻き込んでの大論争が巻き起こったそうで。一時は今年の野球応援は取りやめになるかというところまで揉めに揉めたそうなんですよ。というのもですね――」  七月某日。  全国高等学校野球選手権大会――通称、夏の甲子園、岩手県大会の二回戦。  厳正なる組み合わせ抽選の結果、一回勝てば県営球場での第一試合、という幸運を引き当てた花岡北高校は、テレビ中継なしの森山球場での一回戦を見事に勝ち抜き、同じく一回戦を八幡平球場での一回戦をテレビ中継なしで突破した対戦校である山田西高校とともに、地元のローカルテレビ局で全県中継されていた。
/257ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加