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「そう……ですか」
「まあ、気を落とすなとは言わないけど、今みんなにできることは、いつもどおりにすることだと思う。きっと綿貫先生も、それを一番に望んでいらっしゃるはずだ」
担任はぐるりと教室を見回し、ひとつ頷くと、ぽんとひらりの肩に手を置いた。景吾のクラスでも同じようなやり取りが行われ、D組とE組は一時、お通夜のような重苦しい空気が立ち込めた。
しかし各クラス、各学年でも、月曜の朝の早い段階で似たような事態になっていた。図らずも綿貫先生がどれだけ生徒に愛されているかを知る指針にはなったが、ひらりの心の中には、あることが重くのしかかって気が気ではない。
『大きな問題が起こらない限り』
あんなことを言ってしまったから、綿貫先生は倒れたのかもしれない。
月曜の朝は皮肉にも雨だった。自分が変なフラグを立ててしまったばっかりに、こんなことになったと暗に示しているような空模様の変化は、ひらりの心を沈ませる。空気も心も湿って、ひらりは底知れない恐怖とともに、どんどん気が滅入っていくばかりだった。
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