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――人口の減少と、高齢化。
社会構造の変化は、伝統と継承を困難にさせる。
その解決策として、人は、自分の似姿に任せることを考えついた。
(……知識としては、知ってるよ?)
巫女長の教えを受けながら、此花は、隣のサクヤに眼を移してしまう。
『ドール』とは、科学技術の発展の末に、人類が造りだした人の似姿。
彼らの労働力と発想力は、今の社会にとって、必要不可欠なものとなり始めている。
此花の横で正座をし、同じ巫女として、肩を並べる彼女。
サクヤは、神社の人手不足を解消するために造られた、『ドール』のテストタイプだ。
(でもまさか、こんな歴史的な場所にも)
此花の心中は、複雑だ。
教育や製造、小売や派遣業に至るまで、『ドール』もしくはそれに類するロボットの姿を見ない日はない。
……だからこそ、人間賛歌を唱える者達にとって、彼らはやり玉に挙げられもするのだが。
(嫌なわけじゃ、ないけれど)
じっと、無意識にサクヤの横顔を見つめていると。
「末永さん!」
「は、はいっ!?」
きりっとした声に名前を呼ばれ、此花の集中力が戻る。
(そうだ、今は私も……巫女なんだから)
背筋を伸ばして、今の自分を想いかえす。
白い上衣に緋袴をまとった、巫女装束の姿を。
大学入学と同時に決めた、アルバイト。
それが、憧れである巫女への奉職だった。
(精一杯、やらなきゃ!)
「それでは、今日からお勤めです。よろしくお願いします」
「はい!」
巫女長の言葉に、此花は自分を元気づけるよう、大きな声で受け応えた。
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