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※※※
――それから奉職を開始し、数週間が経った。
(……想像、現実、違う……)
脳と身体が疲労するのを、此花はまじまじと感じていた。
慣れない早起きに、見知らぬ参拝客とのやりとりや、細々とした雑務。
朱印の受け取りに、神事の準備や、楚々としたふるまい。
知識でこそ、巫女という職業を知ってはいたが、やはり現実は違う。
社務所で休憩する此花が、ため息をつくと。
「末永さん、大丈夫ですか」
「……大丈夫。ありがとう」
優しく声をかけてくるサクヤに、此花は、後ろめたい気持ちになる。
(本当、きれいなんだよね)
此花も初めは、サクヤに嫉妬や違和感を抱いていた。
巫女という職業に、ある種、人間としての憧れや誇りのようなものを持っていたからかも知れない。
しかしそんな想いは、わずか数日働く中で、恥ずかしい気持ちへと変わってしまった。
「お水、もらってきましょう。もしくは、少し栄養が足りないようですから、食べるものでも」
「い、いいよ、本当に大丈夫だから」
――なぜならサクヤは、此花が抱いていた、巫女そのものの美しさやふるまいをしていたからだ。
巫女としての仕草を崩さず、裏方の雑事や事務を、美しくこなすサクヤ。
もし、神楽を舞い、祝詞を唱えることがあれば、人の眼を惹かずにはおれないだろう。
(すごい。嫌だなって想ってた自分が、本当に嫌)
失敗ばかりの自分を想うから、此花はより、そう感じてしまう。
「サクヤさんは、すごいよ」
ぽつりと、水を持ってきたサクヤに気持ちをもらす。
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