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唐突な言葉に、一瞬、サクヤは思考した後。
「此花さんの成長速度こそ、素晴らしいものだと想います。私の動きや力は、あらかじめ、積み重ねられたデータがありますから」
「そうかな。サクヤさんがサクヤさんなら、それは自分のものだって想うけど」
『ドール』の仕組みとして、膨大なネットワークに支えられた強みがあるのも、此花はわかっている。
でも、眼の前で人間らしく振るまう彼女を、此花は機械だと想えない。
「……ありがとうございます」
一切の汚れがない、透き通るような瞳。
まっすぐに見つめられると、『ドール』とはわかりながらも、此花の胸はどきりと跳ね上がる。
「サクヤさんなら、どんな相手だって魅入られちゃうよ」
「魅入られる? それは、恋のようなものでしょうか」
「あれっ? 『ドール』って、そういう感情もあるんだっけ」
サクヤからそんな言葉が出てくるとは想わず、食いつく此花。
「機能としては、備わっています。……かつての『ドール』は、恋を抱く思考を、危険として閉ざされていた時期もあったそうですが」
「なにそれ、ひどくない?」
やむをえないことだったのでしょう、と、サクヤは呟く。
寂しげな微笑でそう言われてしまうと、此花もそれ以上は続けられない。
「今は改良も進み、恋という現象への認識も、行えはしますね」
「もしかして、恋愛もしようと想えばできるの?」
「はい。ただお相手には、相当な負荷をかけることになりますが」
サクヤの言葉に含まれる深さに、此花は気づけない。
「じゃあ、恋バナもできるね♪」
今の関心は、人間の理想だと想っていた『ドール』も、身近な恋の話ができるということ。
此花にとってそれは、よりサクヤを親しく感じることができる、大切な事実だった。
「その際は、此花さんにいろいろ教えていただきたいです」
「まかせてよ!」
(……つきあったこと、ないけど)
そうした、たわいもない雑談をするのが、二人のささやかな日課。
まるで、憧れの同級生か先輩と過ごすような、此花の巫女としての日常だった。
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