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※※※
「えっ、私ですかっ!?」
こほん、とたしなめるような巫女長の声。
居住まいを正しながら、でも、と此花は小さな声をあげる。
「私が、鎮花祭の舞を踊るなんて」
憧れだった神楽の役は、しかし、隣のパートナーを見ると緊張する。
「ええ。サクヤと一緒に、あなたにお願いするわ」
鎮花祭とは、疫病からの無病息災を願い、春の頃に行われる祭りだ。
雅楽と神楽、祝詞などを交え、執り行われる神事なのだが。
「あの、私で大丈夫なんでしょうか」
先日、巫女長が怪我をし、予期せぬ巫女の退職があった。
つまり、このお宮では最低二人で執り行う神楽を、此花とサクヤが行わなければいけない事態となっている。
こほん、と禰宜が咳払いをし、口を開く。
「神への感謝と、今年の繁栄。そして、今後のよりよき平穏を願うのなら……新たな舞手を、紹介する必要もあるからね」
人手不足の他に、サクヤが舞う理由は、もう一つあった。
――『ドール』という新しき命を、新しき神への奉職者として、神楽の形でお見せすること。
「末永さんは事情を意識しつつ、あなたらしく舞ってください。そしてサクヤ。あなたは『ドール』として、初めて神楽を捧げます。……その意味、わかりますね?」
巫女長の声に、サクヤは頭を下げる。
「はい。謹んで、お受けさせていただきます」
サクヤの頷きを見て、此花は、ようやく現実味を感じてくる。
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