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秋の夜長とはよくいったものだ。
開けはなった窓から流れ込む涼やかな風が心地よくて、つい読書に没頭してしまった。
壁の時計がもうじき重なる。
私は開いていた本を閉じて、軽く伸びをする。
家の中は驚くほど静かで、自分だけ外界から切り離されたような、そんな寂しさをおぼえた。
「高校二年生だもの、五日ぐらい一人でも平気よね」
そう言って、母は父と二人きりで北海道へと旅立った。
学校を休ませるわけにはいかないからという理由で、私は一人置き去りにされたのだ。
「ごめんな、菜摘。母さんが、どうしても旅行したいっていうから」
娘を溺愛している父は、心底申し訳なさそうにしていた。
それでも母に「たまには二人きりもいいじゃない」と甘えられると、迷惑そうな顔をしながらもほんの少しだけやにさがった顔で、旅行の準備を始めた。
両親がいつまでも仲がいいのはいいことだ。
家で夫婦喧嘩が絶えないよりはずっといい。
それでも、少し寂しいと思うのと、母を憎らしく思うのは仕方のないことだろう。
私の親の世代には珍しいことに、プロポーズは父からではなく母からだったらしい。
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