丑の刻参り

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ぼんやりとものおもいに耽る。 たとえば、私の母親がもっと家庭的なひとだったら。 私が父と仲良く喋っていても、優しく見守ってくれて、 面倒くさいからと総菜や冷凍食品に頼ったりせずに、手の込んだ食事を作ってくれる。 そんな虚しい妄想を掻き消し、私は腰を上げた。 明日は休日で、寝坊したって問題はない。 だけど、あまり夜ふかししすぎると肌に悪い。 そろそろ目も疲れてきたし、さっさと寝よう。 お風呂に入らなくちゃ。 そう思って風呂場に向かったのはよかったが、ひんやりとした空気に満たされた洗面所にいるうちに、シャワーを浴びるのが嫌になってきた。 風呂場はよく冷える。シャワーだけだとかえって体が冷えてしまいそうだ。 かといって、浴槽を洗って風呂を沸かすのも面倒臭い。 「明日の朝でいいか」 顔だけ洗って寝よう。 お湯をつけるのがもったいなかったので、私は冷水で顔を洗った。 冷たい水で泡を落として顔を上げた瞬間、ふと、鏡に何者かの影が映った。 自分ではない、ボサボサの白髪の頭。吊り上がった目。 頭の中に巣食う鬼が、鏡の中から私を見ている。 「いやっ!」 思わず叫んで、私は目を閉じる。 しかし、いつまでも目を閉じてじっとしているわけにはいかない。 恐る恐る目を開けて、私は鏡の中をよく確認した。 そこには怯えた自分の顔が映っているだけだった。 どうやらまた悪い癖がでたらしい。 私は時々ふとした拍子に、鏡の中に、押し入れの暗がりに、箪笥と壁の隙間に、本で読んだ鬼女の姿を浮かべてしまう。 なまじ、さっきまでホラー小説を読んでいたからよけいに妄想力が高まっているのだろう。 鬼も幽霊も、存在しないものなのに。 高校生にもなって、見えない鬼に怯えるなんてみっともないことこの上ない。 鏡の中の私が苦笑を浮かべる。 ほんと、一人で怖がって馬鹿みたいだ。 顔をタオルでしっかり拭いて、母の高い化粧水をこっそりと肌につけると、 私は自分の部屋のベッドに寝転んで目を閉じた。
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