丑の刻参り

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しばらくオレンジ色の小さな花を眺めていたが、すぐに飽きた。 何か他に面白い発見はないだろうか。 金木犀に背を向けた瞬間、古びた物置が目に入る。 「ここにはぜったい触っちゃだめよ」 幼い頃、母が物置中にある小さな戸棚を指差してそう言ったのをふと思い出す。 母曰く、この戸棚の向こうはお化けの世界になっているらしい。 開けると悪いお化けがでてきてしまうのだと、幼い頃から私は脅されていた。 片付け下手な母は、家の押し入れやタンスに物を一杯に詰め込んでいる。 物置もきっと、いらない物がしっちゃかめっちゃかに詰め込まれているのだろう。 そのなかには農薬や鎌などの危険なものもたくさんあるだろう。 何でも触る子供が怪我をしないように、母はお化けが出るなどという嘘を吐いたに違いない。 物置の中は薄暗く、ただでさえ気味が悪いのでふだん近付かない。 その上、母が怖い話を繰り返し聞かせるものだから、、物置は怖い場所のような気がしていて、ずっと中に入っていない。 本当にとんでもない秘密が隠されていたりして。 幼い自分にお化けがいるから近付くな、と忠告する母の顔は真に迫っていた。 もしかすると、お化けじゃなくて母の秘密が眠っているのかもしれない。     
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