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その玻璃の言葉に、ぐちゃぐちゃと整理が追い付いていなかった白夜の思考は急に鮮明になった。
「え……。」
困惑気味に玻璃を見上げながら
「俺、そんなに空見てた?」
そう聞く白夜を玻璃は何言ってるの?と言わんばかりに首をかしげる。
「まさか、無意識だったの?」
玻璃の言葉は図星だったらしい。白夜は数秒「………。」と目を見開いたまま固まって。
慌てたようにぷいっと玻璃から目を背けた。その耳は夕陽を浴びているとはいえ、心なしか色を帯びて見える。
「どうして空が好きなの?」
玻璃は楽しくなってきて、肩に斜め掛けしたままで、今の今まで存在を忘れてたランドセルを放り出し、白夜へと歩み寄った。
こんなに人らしい反応が彼にできただなんて。
なんてよくわからない不思議な感動とぬくもりを胸に抱きながら。
彼は、またぼんやりとまた、空を眺めていた。その顔はどこか複雑そうで。
それをどう形容したら適切なのか、何故複雑そうなのか、玻璃にはわからなかったけれど。
不意に白夜が口をゆったりと開いた。
「空の、澄み渡る、美しい青が」
「目が冴えわたるような高潔な青が」
「どこまでも続く、
ぽっかりと空洞の空いたような孤高の青が」
「俺は好きなんだ。」
窓からすぅっと冷たい風が教室の中に舞い込んだ。
風は白夜の銀の鬣を、白い肌を通り抜け、玻璃のおさげを、瑞々しい肌をなでてゆく。あんなに騒がしかった蝉の声はもう、はるか遠く。日が落ちゆく時刻はこれから更に早くなっていくのだろう。
「………私も、空の青色、花浅葱色は好きだよ。」
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