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そして、急に彼は真面目な顔をつくったかと思うと、次の瞬間にはふわりと微笑をたたえて。
こういう時には、お礼、であってたか?
手元にあるざらざらとした、布張りの格調高い本の表紙を撫でた。
「その………ありがとう、な。」
………あ、やばい。
玻璃は体中の血という血と、熱という熱がほおに集まっていくのが感じた。それなのに、玻璃にはその集まる血と熱をどうすることもできない。
そして、暴走してもはや操縦不可能になった車は一度事故を起こさないと、止まらないのと同じで。
「あの、ちゃんと名前を呼んで欲しいな。
私には、金剛玻璃って名前があるんだから、白夜。」
……………。
玻璃はここで回想を自ら断ち切った。
教室の中で、一人。頭を抱えて悶絶する玻璃。はたからすると、変人にしか見えない、それに。
でも、玻璃にとって白夜との出会いはいつまでもつきまとう黒歴史なのだ。忘れようにも、初めて白夜と話せた日、ともすれば記念日ともいえるこの日を、玻璃はどうしても忘れることができない。
………なんで、なんであんな微笑ごときで落とされちゃってるのよう?
チョロい。チョロすぎる、チョロすぎて萎えるよ、私?
でも、あの笑顔は反則でしょう?無理でしょう?誰でも落とされちゃうでしょう?
そのうえ、なんで自分(おんなのこ)から名前呼びを強要?なんで、向こうの許可なく、日輪君呼びから、白夜呼びに移行させたの?いや、そりゃ思ってましたけど?
白夜が私を君呼びするたびに玻璃って呼んで欲しいななんて思ってましたけど?
大体、私はどのくらい白夜の観察にいそしんでいたの?
いや、白夜は授業中に五分おきに時計を見てて、ラスト十分になると一分おきになるって。
じゃあ、私は何分おきに白夜を見ていたの?
まるで、それじゃぁ、…ス、ス…ストー…カーじゃない!
ちなみに、他人に指摘されるまで、自分の起こした行動をあまり深く考えたことのなかった、玻璃である。
本当に、白夜が激ニブで、恋愛観そのものが0でよかった。多分、白夜が普通の一般的な価値観と恋愛観を持った人だったら、大変なことになっていただろうから。
そう、玻璃は少し冷静になった。
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