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「知っているか、玻璃。
ため息を一つつくと幸せが一つ逃げていくのだぞ?」
玻璃のすぐ後からよくよく見知った声が玻璃を呼び止めた。あまりの突然の出来事に玻璃はビクッと全身をこわばらせて。反射的にうわぁ!と叫びながらちょうど片手に収まっていたかばんを声の聞こえた後方へ投げつけた。
「ほら、物にはやさしく。かばんさんが泣いているだろう?」
おもいっきりかばんを投げつけた反動で、肩で息を切りながら後ろを振り向いた玻璃の目に写ったのは。
あんなに強く投げつけたにも関わらず、何事もなかったかの様に、軽やかにキャッチしたかばんを玻璃に差し出し、爽やかに微笑む男。
絶対、絶対!!わざとだ!
こめかみをピクリとひきつらせた玻璃を見て、男は更に爽やか度をあげて笑った。
清水 江雪。それが彼の名だ。光幻高校首席入学者にして、白夜の数少ない友人。なんのこだわりからか、男の癖に長く、一本で結われた、青みがかった茶髪が窓から入り込んでくる風でふわふわと揺れている。
ちなみに、玻璃とは白夜とどのくらいの付き合いなのかを問うたところ、まだ、その頃は自分の行動を客観視することが出来なかったため、恍惚とした表情で白夜との出会いを語り始めた玻璃に「いや、それストーカーじゃないか。」としれっと指摘して以来、犬猿の仲である。
本当は、玻璃が一方的に江雪に、黒歴史を自ら暴露してしまったが故の苦手意識と照れを持っているだけなのだけれど。それを見て、面白がった江雪が更に玻璃にちょっかいをかけて怒らせて、楽しんでいるというのが実際のところだ。
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