8.金剛 玻璃

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「お、おい! てめぇ、なに無視してやがる!」 当然、怒った一人のリーダー格の男子がそのまま白夜に殴りかかって。 勝敗は簡単に決した。 かなりの力を込めて放たれたであろうその拳を白夜は片手で軽く受け止めたのだ。 そして、同時に体の芯が凍りつくほどのあまりに恐ろしい敵意を、殺気を教室中に充満させて。 それら(敵意と殺気)をもろにくらった、殴りかかってきた男子が「ひ、ひぃ」と情けない声を漏らしながら、足元から崩れ落ちていくのを白夜は見ながら、くだらなそうに口を開いた。 「お前らと、遊ぶ?くだらない。 こっちから願い下げだ、そんなもの。 いい加減にしてくれない?しつこいんだよ。 俺の髪と眼が人と違うのは、気味が悪いのは言われなくても知ってる。 俺だってこんな色、嫌いだ。 でも、だったら放っておけばいいじゃないか。 俺はお前らなんかに興味はない。」 無表情のままそう告げた白夜は美をどこまでも追及され、作り上げられた無機質な機械のようで。 皆、その冷たさと美しさに見惚れてしまう。 白夜はすっかり静かになった生徒たちに背を向けて、すたすたと歩きだした。皆の視線が無意識に彼の背を追う。 そして、教室の出入り口の扉のところで白夜はふと思い出したように、口を開いた。 「大体。」 白夜の声が、沈黙が支配する教室に唯一、響いた。 たった一輪で凛々しく咲いている気高い花のような荘厳な声。天まで突き抜け、玲瓏に輝く声。 その言葉に皆、びくりと震えた。 何故なら、薄い殺気と威圧を含むその声の中に、何ゆえか哀しみが垣間見えた気がしたから。 白夜はふわりとこちらを振り返った。 肩越しに流し目で皆を見やりながら。 銀の髪が風と共に儚く舞う。 紅い瞳が何の邪心も虚飾もなく皆を捕らえる。 彼は妖しく、冷艶(れいえん)に笑っていた。 「大体。 お前ら如きが武力(殴り合い)で俺にかなうとでも?」 誇るでもなく、静かに淡々と重ねられた言葉が皆の心に重たく沈んでいく。 思い返せば、白夜が転校してきてから笑ったのは初めてだった。 なんて色気、なんて虚ろな笑み。 白夜はそう言い終わると今度こそ、皆に背を向けて、振り返ることなく歩いて行った。
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