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口をつぐんで本を読み続ける白夜と、何も語らずその様子を眺める玻璃。二人の間は無音で。
白夜が本のページを操るその音のみが沈黙の空間を駆け抜ける。ぺらり、はらり、ぱらり…………。
彼には色がなかった。
その本をめくる細くて長い指にも、本へと向ける瞳にも。一つ一つの所作が投げやりで、意思を、感情を感じられない。
ただひたすらに、無色。
ねぇ、日輪君。君の瞳は一体なにを映しているんだろう。
あなたが今、目を落とすその本に書かれている文字と文字の間には何がある?
あなたが時折、見遣る担任の先生の奥底には何がある?
あなたがいつも振り放く蒼穹の向こう側には何がある?
彼はここに存在しているはずなのに、
彼の心はいつだって、ここにはいない。
絶対に感情を見せようとせず、世の中全てを冷たい目で見つめる。彼は勉強も体育も別格の成績だった。
それと同時に彼は異端な髪と眼を持ち、親がいない孤児院に住んでいたから。
「…………で?
君はわざわざそんなことを言うためにここまで来たのか?」
やっぱりかれの言葉は、瞳、所作と同様にどこまでも無色だった。
何気なしに、なんとなく問われたそれがやけに重たく、空間を支配する。言外に、「なんの用だ」と告げる声の波は、ぼんやりと白夜を見つめる玻璃の耳奥をゆらす。
なんの、用…か……。なんの用?
そんなの決まっている。
どうしても、伝えたいことがあった。伝えなきゃならないことがあった。
玻璃は必死に自分の思いを表現する言葉を探して。
「さっき……日輪君、
自分の髪と瞳が嫌いだと、言ってたでしょ。」
ゆっくりと口に出した。
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