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 あの時の感情がなんだったのか、俺はわかっていなかったのだ。だから、咄嗟に馬鹿な行動に出て、郁人を傷つけてしまった。ガキだった俺が悪い。  もしも、あのまま郁人の言葉を受け入れ、友達関係におさまってしまったなら、俺たちは二度と互いの気持ちを確認することはなかっただろう。  俺も、自分の気持ちには気づかないままだったかもしれない。 「今の言葉を聞いたら、元カノたちが泣くね」  郁人が苦笑を浮かべる。 「それは言ってくれるな」  ふと、郁人と目が合う。俺たちはどちらともなく唇を重ねた。 「ん、光汰……」 「ん?」  郁人はしばらく俺を見つめると、満面の笑みを浮かべた。 「好きだよ」 「……」  俺が黙っていると、郁人が覗き込んでくる。 「照れてんの?」 「別に」  郁人の視線を避けていると、俺は大事なことを思い出した。 「そういえば、郁人。お前、サークル辞めんの?」  俺の言葉に、郁人がハッとする。 「やべっ、部長に訂正してこないと」  やはり、原因は俺だったようだ。一応、郁人に理由を尋ねる。 「いや、光汰に会いたくなくて」 「……もう少しオブラートに包めよ」  その言われようはさすがにへこむぞ。  俺の様子を見て、郁人があわてて言い足す。 「だって、あんなことされてどんな顔して会っていいかわかんなかったんだもん」 「それに関しては悪かったよ……」  郁人はすでに部室に足を向けている。俺も郁人に並んだ。 「部長になんて説明しようかなぁ」 「俺たち付き合います、とか?」 「……光汰、馬鹿だろ」  実際そうだし、なかなかいいアイデアだと思ったんだけどなぁ。彼女いない歴が10周年になろうとする部長には酷な話かもしれないが。 「はやくいこ。部長探さなきゃ」 「まだ部室にいるといいな」  俺たちは、また以前のような他愛ないやり取りをしながら歩く。  もうこの時間を失いたくはない。俺が初めて本気で好きになったやつなのだ。これからも二人で一緒に、このくだらないやり取りをし続けることができたらいい。 「光汰、なにぼーっとしてんの?」 「いや、別に」 「顔にやけてたよ」 「まじか」  俺たちは笑いあいながら、部室の扉を開けた。  さて、部長に何て言うかな。
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