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 部室には相変わらず誰もいなかった。みんな授業に出ているのかもしれない。  郁人はソファーに腰かけると、へらっと笑った。 「昨日はごめんね? ちょっと調子に乗っちゃったっていうかさ」  先ほどとの態度のギャップに呆気にとられていると、郁人は矢継ぎ早に言う。 「これでもオレなりに彼女と別れて傷心の光汰を慰めようとしたわけ。酔っぱらった勢いでちょっと過激になっちゃったけどさ、あれは光汰にも責任あるんだからあんまり責めないでほしいなぁ……だってオレ、」  俺はいすを蹴飛ばして郁人の言葉を遮る。そのまま郁人に歩み寄って、胸ぐらを掴んだ。 「お前、今まで散々俺を避けておいて、今さらそんな誤魔化しがきくとか思ってるわけ?」 「う……」  郁人が苦しそうにうめく。俺はこの期に及んではぐらかそうとする郁人に頭にきていた。  だから、余計なことまで口走る。昨日から俺の頭にあって、気づかないふりをし続けていたことを。 「好きなんだろ……? 俺のこと」  耳元でそう囁くと、郁人は俺を力いっぱい突き飛ばす。そして、ふらついた俺をぶん殴った。 「このっ……!」  完全に頭に血がのぼった俺は、再び郁人に掴みかかると、強引に唇を重ねた。 「んんっ!?」  郁人がもがく。押しのけようとする腕を素早く抑え込んだ。そのまま壁に押し付ける。 「んっ……ふ……! こう、んぅ……」  強引に口内を侵し続けていると、抵抗はやんだ。静かな部屋に二人の息遣いと水音だけが響く。 「ふう……」  しばらくして俺が口を離すと、郁人の平手打ちが飛んできた。予想はしてたけど。  俺は避けることもせずに、ビンタをくらった。  郁人は泣きそう、というかもはや泣いていた。俺は黙ったまま郁人を見つめる。 「そうだよ……」  郁人は弱々しく口を開いた。 「オレは、お前が好きだよ……!」  そう言うと、俺の隣をすり抜け、扉に手をかける。出ていく寸前、郁人が振り返った。 「馬鹿野郎!!」  俺は、走り去る郁人をただ見ていた。  本当に、俺は馬鹿だ。
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