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いつもの帰り道、車窓から外を眺めながら昔の事を思い出していた。もう上京してきてから何年経つんだろう、東京の暮らしにすっかり慣れてしまっている自分に驚いた。たまには地元でゆっくり過ごしたい気持ちもあるが、今は忙しくてそんなこと言っていられない。 元々ファッションが好きだった俺は上京してすぐに右も左も分からないままでアパレル業界へ飛び込み、ショップ店員として働き始めた。パッと見は、オシャレな服を着て楽しく会話、そしてちょっと馬鹿っぽい。チョロい。こんなに楽に稼げる仕事は無い。失礼ではあるが、そんなイメージを抱いていた。が、そんなものは全くの思い込みに過ぎなかった。 実際に働いてみると、覚えることの量の膨大さ、力仕事の多さ、そして精神力が何より重要であることが分かった。まあどの企業に務めても覚えることはそれなりに多いとは思う。ただ、接客業では業務的なもの以外に、顧客をある程度覚えておく必要がある。長く務めていれば名前を覚えたり、その人の好みの物もある程度把握できるのだが、新人にはとても難しい。たまに先輩スタッフから「あの方はよく来てくださる方だから覚えておいて」なんて言われる事もあるのだが、ただでさえ業務を覚えることに必死になっている頭をフル回転させて覚えても、次回のご来店ではすっかり忘れてしまっていることも多々あった。申し訳ない気持ちと、なかなか覚えられない歯痒さに悔しくて堪らなかったのを覚えている。 とまぁ、それ以外にもいろいろ大変だったこともあるけれど、今は語り出すと長くなるので割愛。
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