一二月三日(金曜日)

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一二月三日(金曜日)

師走の朝の、凍てついた空気が私の肺を締め付ける。比較的アウトドア派な登山部部員とはいえ、全力で廊下を走ればさすがに息は乱れ鼓動はその速度を増す。  朝のホームルームの後、昨日部室に忘れた筆箱を取りに行った私は、なんとなく、机の上に置いてあった登山雑誌に目がいった。 一時間目にはまだ時間があったため私は直前まで読もうと思ったのだが、それが失敗だった。  一段飛ばしに階段を渡っていく。コツンコツンと小気味良い音が、喧騒からわずかに離れた階段という空間に響き渡る。 ――間に合う、間に合う。  私は自分に言い聞かせる。こういうことは日常茶飯事で、ある意味得意分野といっても良いだろう。全力疾走がもたらす苦痛は無くすことはできないのだけど。こういう無計画な性格を直したくて、建設的に登山経路を考える必要のあるため計画性を獲得できると謳っていた登山部に入ったのに、基本的に経路は先輩たちが決めるので結局養えていないのが非常に残念である(それが建前だと気がついていることは自分にも秘密である)。  手すりを利用して二階の踊り場を曲がる。  三階まであと二六段まで差し掛かり、スパートをかけると、 「……ッ!」     
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