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星の河を超える
この川を渡るのは、十年前の学生の頃以来だ。
「懐かしい」
助手席のMが言った。彼女は急いで窓を開ける。車内に吹き込んできた風が、しっかりと整えてきた髪をぐちゃぐちゃにする。と、同時に、さっきまで空間を満たしていた上品な香り、高級な香水なんだろう、それを吹き飛ばす。
「気持ちいい」
全開にした窓からの空気を受けながら、彼女は乱れた髪を掻き上げた。額が出ている。
そう、そのほうが学生の頃みたいだ。あの頃はずっと短い髪型で、化粧もしていなかった。香水なんかも付けていなかった。
「覚えてる?」
彼女は窓の外を見ていた。
「学園祭の前の日に、何か足りなくて、皆で100円ショップに買い出しに行ったよね」
風に負けないよう、彼女の声は大きかった。
「この橋、車で渡って」
「運転してた、オレ」
忘れるはずがない。
「免許持ってるのキミだけだったよね」
「車もな」
親が大学進学祝いに買ってくれたクルマ。卒業してすぐに手放した。
「実行委員の皆で」
「ああ、皆で」
今も忘れない。学園祭の実行委員会、学生時代の一番の思い出かもしれない。
「Sクン、いっつもこの橋の構造の話してたよね。ラーメン構造」
彼女は小さく笑った。
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