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「Sクン、どうなったか知ってる?」
「ベトナムかどっかでODA絡みの現場にいるんじゃなかったっけ」
「今は、アゼルバイジャンで、インフラの整備」
「そうか」
「メール送ったけど、どうしても来れないって」
彼女はまた髪の毛を掻き上げた。
「キャンプファイヤーの着火剤を買いに行ったの。Gクンがどうしても要るからって言うから」
「そういえば、そうだった」
「Gクン、言い出すと聞かないから」
「その通りだ」
「そのあと、皆でラーメン食べに行ったよね」
「Sが、ラーメンラーメン言うから」
返事が無かった。
横顔の彼女は泣いていた。
「Gクン、最後まで頑張ったんだよね、きっと」
返事を返せなかった。
初めて木星に旅立った人類の宇宙飛行は悲劇に終わった。帰還途中の火星でのスイングバイの失敗は、誰も予想していなかったはずだ。クルーは諦めなかった。クルーのひとりであったGも。
地上のスタッフとクルーは、宇宙船を太陽の周回軌道に乗せることにまで成功した。地球への帰還は叶わない。惑星の軌跡を描きながら、やがて生命維持装置の限界を迎えた宇宙船は沈黙した。
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