ヒグラシ

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 蝉が鳴いている。 その音の中に少しだけ高く、涼しい音が混じっていた。  ヒグラシか、鈴虫か。 昼間から彼らも忙しない。 この暑さの中だ、煩わしさだけが心を支配していく。 だが、何もないよりはその方がいいような気もする。 夏と言うのはそういう季節だと思うから。  道端に転がっている蝉がジジジと音を出して、 最後、もう一度空を飛ぼうと必死にもがいている。 或いは、死から逃れようとしているのか。  季節がまた、巡ろうとしている。  あたしは立ち止まって、目を閉じた。
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